東京地方裁判所 昭和51年(ワ)902号 判決
一 原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲に成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報。別添参照。)を総合すれば、本件考案の構成要件は、次のとおりであることが認められる。
1 金属パイプ等堅牢な杆材で成形された複数の<省略>形側面枠が所要の間隔をおいて横架材により接続されていて、これが複数の飼育檻本体を形成していること、
2 飼育檻本体の正面に餌箱が取付けられていること、
3 餌育檻本体の背面に扉が開閉自在に装着されていること、
4 <省略>形側面枠に遮蔽枠が着脱自在に取付けられていること、
5 <省略>形側面枠と一体の支脚に長さ調節部材が装着されていて、これが支脚を任意の長さに調節可能にしていること、
6 遮蔽枠の受具が<省略>形側面枠の内側に固定装着されていること、
7 豚飼育用檻であること。
三 次に、被告が昭和四九年八月頃から現在までイ号物件を業として製造、販売していること、昭和五一年一月から一二月までロ号物件を業として製造、販売したこと、及びイ号物件、ロ号物件がそれぞれ別紙(〔編註〕省略)第一物件目録、第二物件目録記載のとおりのものであることは当事者間に争いがない。
右争いのない別紙第一物件目録、第二物件目録の記載にイ号物件の写真であることに争いのない甲第六号証の一ないし五、同第七号証の一ないし四、本件口頭弁論の全趣旨によりイ号物件の写真であると認められる甲第一〇号証の一ないし四、乙第六号証の一ないし一一、成立に争いのない甲第一一号証、イ号物件の<省略>形側面枠であることに争いのない検乙第一号証を総合すれば、イ号物件、ロ号物件の構成は、それぞれ次の(一)、(二)のとおりであることが認められる。
(一) イ号物件
(1) 金属製角パイプ材で成形された複数の<省略>形側面枠が約四五センチメートルの間隔をおいて横架材により接続されていて、これが複数の飼育檻本体を形成していること、
(2) 飼育檻本体の正面に餌箱が取付けられていること、
(3) 飼育檻本体の背面に扉が開閉自在に装着されていること、
(4) 横桟の差込み孔に下端を、<省略>形側面枠の上辺水平部の差込み孔に上端を、それぞれ嵌合した縦桟(等間隔で一〇本)と、該横桟とから成る仕切部材が、該<省略>形側面枠に取外し可能に取付けられていること、
(5) <省略>形側面枠と一体の前後の各支脚(後脚は前脚より一三センチメートル短い。)の下端に、長さ調節ボルトをねじ込んだナツトが溶接固定されていること、
(6) 仕切部材の横桟を固定するための<省略>形金具が<省略>形側面枠の前後各垂直部にボルト・ナツトにより固定装着されており、また、仕切部材の縦桟の上端を嵌合するための差込み孔が<省略>形側面枠の上辺水平部の内側に設けられていること、
(7) 豚飼育用檻であること。
(二) ロ号物件
構成(1)´ないし(7)´のうち、(1)´、(2)´、(3)´、(5)´、(6)´及び(7)´は、イ号物件の構成(1)、(2)、(3)、(5)、(6)及び(7)とそれぞれ同一であり、(4)´は次のとおりであること。
(4)´ 横桟の差込み孔に下端を、<省略>形側面枠の上辺水平部の差込み孔に上端を、それぞれ嵌合した縦桟(等間隔で一〇本。その上下両端部に緩衝材としてプラスチツク製鍔付キヤツプが嵌合されている。)と、該横桟とから成る仕切部材が、該<省略>形側面枠に取外し可能に取付けられていること。
四 しかして、イ号物件、ロ号物件の構成と本件考案の構成要件とを対比するに、イ号物件の構成(1)、(2)、(3)、(7)、ロ号物件の構成(1)´、(2)´、(3)´、(7)´がそれぞれ本件考案の構成要件1、2、3、7を充足することは、被告も認める如く、明らかであるので、次に、イ号物件の構成(4)、ロ号物件の構成(4)´が本件考案の構成要件4を充足するか否かを考察する。
(一) 本件考案の構成要件4は前記のとおり「<省略>形側面枠に遮蔽枠が着脱自在に取付けられていること」であり、したがつて、構成要件4にいう遮蔽枠は<省略>形側面枠と着脱自在のものである。
右遮蔽枠が四囲を囲んだ状態のものに限られるかどうかはさておき、右「着脱自在」の内容について検討するに、本件明細書の「詳細な説明」の欄に「本考案は前記のように遮蔽枠を着脱自在に設けてあるから、中間の遮蔽枠を取外すことにより集団飼いができ、また各側面枠に取付ければ、一頭飼いに簡単に切換えることができる。」(本件実用新案公報第二欄七行目から一〇行目まで)と説明されていて、本件考案は、遮蔽枠が「着脱自在」であるがゆえに、その取外し、取付けにより、一頭飼いから集団飼いに、集団飼いから一頭飼いに簡単に切換えることができるという作用効果を奏するものであること、換言すれば、本件考案においては、一頭飼いから集団飼いに、集団飼いから一頭飼いに簡単に切換えることができるという作用効果を奏するほどに遮蔽枠の取外し、取付けすなわち着脱が自在であることを要するものと認められ、これに反する証拠はなく、また、成立に争いのない乙第七号証、同第九号証の一、二、一一、一四、一五によれば、原告(出願人)は、本件考案の実用新案登録願に対する昭和四八年六月一日付拒絶理由通知書(実用新案法第三条第二項に該当することを拒絶理由とする。)に対し、同年八月一〇日付手続補正書により、右遮蔽枠に相当する仕切枠について「仕切枠の着脱操作を容易にし、必要に応じて集団飼い及び一頭飼いに簡単に切かえられるようにした」という、願書に最初に添附した明細書の記述を、「仕切枠は着脱自在に設けてあるから、集団飼いおよび一頭飼いに簡単に切換えることができる。」と変更したうえ、同日付意見書において、「本願の考案はパイプにより支脚の長さが自由に調節できること並びに仕切枠の着脱が簡単にできる点を特長とするものであ(る)」と説明していること、成立に争いのない乙第八号証、同第九号証の一八、一九、二三によれば、昭和四九年三月二六日付拒絶理由通知書(既に現在の本件明細書と同じ記述に変更されていた遮蔽枠について「なお、遮蔽枠を着脱自在とする点については、……………当業者が極めて容易になしうる程度の設計事項にすぎない」との指摘がある。)に対し、同年六月一〇日付意見書において、「本願の考案は中間の仕切枠を着脱自在にしたことにより一頭飼いと数頭飼いの切換作業が頗る簡単にできる点において引用例と相違」する旨説明していることが、それぞれ認められる。
以上の事実に、本件明細書及び添附図面において、遮蔽枠を<省略>形側面枠に着脱自在に取付ける構造の一実施例として、梯子を横に倒した形状の遮蔽枠が、その上辺の両端が<省略>形側面枠の前後各垂直部上部に横向きに固定装着されたU形受具に嵌合され、かつ該∪形受具を貫通する止めピンによつて止められ、その下辺の両端が<省略>形側面枠の前後各垂直部下部に上向きに固定装着された∪形受具に嵌合されることにより、該<省略>形側面枠に取付けられる構造のものが開示されていることが前顕甲第一号証により認められることを参酌すれば、本件考案の構成要件4にいう「着脱自在」とは、遮蔽枠を<省略>形側面枠から取外すこと及びこれに取付けることが単に可能であるというだけでは足らず、遮蔽枠を<省略>形側面枠から取外して一頭飼いから集団飼いに切換え、また、遮蔽枠を<省略>形側面枠に取付けて集団飼いから一頭飼いに切換えるという作業が極めて簡単にできる構造であることを要するものと解すべきである。
右「着脱自在」の内容について、原告は、必ずしもワンタツチで取付け、取外しができることをいうものではなく、特段の熟練を有しない者でも一定の時間をかけ一定の手順を踏めば取付け、取外しができる程度に自在であれば足りると主張するが、右認定の要件を充足するような構造のものをもつて、ワンタツチで取付け、取外しができるものと称するかどうかは別として、本件考案の構成要件4にいう「着脱自在」の内容について、特段の熟練を有しない者でも一定の時間をかけ一定の手順を踏めば取付け、取外しができる程度に自在であれば足りるとの主張が採用しえないことは、如上の説明から明らかなところである。また、原告は、豚の出荷月数は八ないし九か月であり、集団飼いに適する子豚から一頭飼いに適する成豚に成長する過程で、右遮蔽枠の取付作業が行われるから、その作業頻度は、年間を通じて一回程度であり、日単位、時間単位での頻繁さはないと主張するが、仮にそうであるとしても、前記判断を何ら左右するものではない。
(二) 一方、イ号物件の構成(4)、ロ号物件の構成(4)´にいう仕切部材は、横桟の差込み孔に下端を、<省略>形側面枠の上辺水平部の差込み孔に上端を、それぞれ嵌合した縦桟(等間隔で一〇本)と、該横桟とから成り、該<省略>形側面枠に取外し可能に取付けられているものであることは、前記のとおりである(なお、縦桟の上下両端部に嵌合されているロ号物件のプラスチツク製鍔付キヤツプは、緩衝材にすぎないから、本件考案との対比においては度外視することができる。)。
そして、別紙第一物件目録、第二物件目録の記載に前顕甲第六号証の一ないし五、同第七号証の一ないし四、同第一〇号証の一ないし四、同第一一号証、乙第六号証の一ないし一一、検乙第一号証及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、右仕切部材は、<省略>形側面枠から取外すと、その構成要素である横桟と一〇本の縦桟にバラバラに分解してしまい、これを<省略>形側面枠に取付けるには、横桟を<省略>形側面枠に固定装着された<省略>形金具にボルト・ナツトにより取付け、かつ、一〇本の縦桟を、その下端を横桟の差込み孔に、その上端を<省略>形側面枠の上辺水平部の差込み孔に、それぞれ嵌合して、一本ずつ取付けるという面倒な作業を要することが認められ、これによれば、横架材により接続して設置された複数の飼育檻本体をそのままの状態にして、右仕切部材を特に<省略>形側面枠に取付ける場合に多大の困難を伴うことは推認するに難くなく、また、右複数の飼育檻本体をいつたん分解したうえで右仕切部材を<省略>形側面枠に取付ける場合に多大の労力と時間を要することは推認するに難くない。現に、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証によれば、仕切部材の取付けには手間がかかり面倒であることが認められる。
右事実によれば、右仕切部材は、いわば分解、組立てが可能であるというにとどまり、これを<省略>形側面枠から取外して一頭飼いから集団飼いに切換え、また、これを<省略>形側面枠に取付けて集団飼いから一頭飼いに切換えるという作業が極めて簡単にできる構造であるとは到底いえない。
なお、原告は、被告自身、甲第八号証(被告のパンフレツト)を用いて宣伝することにより右仕切部材が「着脱自在」であることを認めていると主張するが、右成立に争いのない甲第八号証の記載は、「被告製品は、電気溶接を一切用いていない組立分解方式のもので、はめ込み方式により破損を防止すると同時に各部品が容易に交換できる。」というものであつて、右分解、組立てが可能であるという域を出ないものである。
(三) したがつて、イ号物件の構成(4)、ロ号物件の構成(4)´にいう仕切部材は、<省略>形側面枠と着脱自在のものとはいえないから、イ号物件の構成(4)、ロ号物件の構成(4)´は、本件考案の構成要件4を充足しない。
五 以上によれば、イ号物件、ロ号物件は、その余の点について判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属さないといわなければならない。この判断と異なる甲第九、第一二号証の見解は、当裁判所の採用しないところである。
してみれば、イ号物件、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その前提を欠き、いずれも理由がないことが明らかである。
六 よつて、原告の本訴請求をいずれも棄却することとする。